貫場幸英 Yukihide Nukiba
1962年 富山市生まれ。 学生時代、アルペンスキー全日本選手権で8位入賞。卒業後、家業の瓦工事店を継ぎ、一級技能士資格を富山県首位で取得。「職人」としての研鑽を積む傍ら、世界各国の建築やアートを巡り、独自の感性を磨く。
「デザイン・アート・スポーツの融合」を信念に、株式会社VEGA(Value Engineering Global Artist)を設立。故郷・富山にて、黒田征太郎、黒田泰蔵、柿谷誠を招聘した「三人展」を皮切りに、「LIVING ART IN TOYAMA」のプロデュースや「アートスペースVEGA」の設立など、多角的なクリエイティブ活動を展開。
近年は、アルペンスキーという「重力との対話」を再開。ハイスピードの中で「空(くう)」に帰る感覚を、様々な素材を用いたアート作品へと昇華させている。 職人の精密な技術とアーティストの直感が共鳴(レゾナンス)する「アートスペースVEGA」を、世界に類を見ない唯一無二の表現の場とすべく、日々「内なる光(アイヌイティ)」を形にし続けている。
VEGAの三柱:表現の深淵にあるもの
私の創作は、常に三つの概念が重なり合う場所に生まれます。 それは、技術が芸術へと昇華し、個の意識が宇宙へと繋がるための道標です。
- Inuitty(アイヌイティ)— 内なる光、愛を縫う知恵
「Idea(閃き)」と「Ingenuity(独創的な創意工夫)」、そして「愛縫(あいぬい)」。これらを融合させたVEGA独自の概念です。 それは単なる知性ではなく、天から降り注ぐ光を、職人の知恵と魂の愛でこの現世に縫い留める行為。私という器を通り抜けて現れるその光は、バラバラだった素材と空間を、一つの命として繋ぎ合わせます。
- Paradox(パラドックス)— 逆説の調和
「Everything is Nothing(すべては無なんだ)」。 重厚な瓦の素材が、形のない光を映し出す。溶けて消えゆく雪が、永遠の遺伝子を語る。 対極にあるものが衝突した瞬間に生まれる、美しき矛盾。 執着を手放した「無」の境地にこそ、宇宙のすべて(Everything)が宿るという真理を探究しています。
- Resonance(レゾナンス)— 宇宙との共鳴
太陽の光、闇の静寂、そして見る者の魂。 私の作品は、それらが一つの空間で出会い、響き合うことで初めて完成します。 自然という巨大な筆と、職人の器が共鳴(レゾナンス)するとき、取り残された空間は宇宙へと繋がる宝石箱へと変貌を遂げるのです。
水盤 A basin
水盤という名の器
アートスペースはここから始まった。 それは、世界を旅して集めた感性と、瓦職人としての技術が、散歩道の水溜りで邂逅(かいこう)した瞬間でした。
屋根を守るための素材が、光と影、そして空を映すための器になる。 「アート」という言葉すら意識せず、ただ好奇心のままに、一人で、すべてをやり遂げた。
水盤という小さな器の中に、宇宙の広がり(Everything)を閉じ込める。 しかしそれは、光が差し込まなければ存在し得ない、儚い「無(Nothing)」でもある。
Everything is Nothing. VEGAを貫くこの美しきパラドックスの真髄は、すでにこのとき、闇に浮かぶ水盤の中に生まれていた。
スノーブロック Snow Block
消えゆく遺伝子の肖像
雪を型に入れ、踏み固め、静かに型から外す。 現れた真っ白なブロックの、吸い込まれるような純真な美しさに、私は言葉を失った。
しかし、完成した瞬間から、それは溶け始める。 天から降る雪が「遺伝子」であるならば、私の手によって生まれたカタチはやがて儚く消え、大地へと還っていく。 その抗えない時の流れは、まるで「人の一生」そのもののように思えた。
創っては消え、消えては創る。 執着を手放した先にしか存在しないこの「美」の探究は、 後に、光や色彩を積み重ねていく私のあらゆる表現の、確かな「種」となった。
ヒカリのキャンバス Canvas of light
ヒカリのキャンバス:宇宙と繋がる翳(かげ)の宝石箱
すべては30年前、この取り残された闇の空間を甦らせることから始まりました。ここはヴェガ(VEGA)の創生の地であり、歳月をかけて「闇」を「宇宙への窓」へと変貌させてきた至高の聖域です。瓦職人としての精緻な手仕事は、スノーブロックという儚い「無」の経験を経て、ウッドやガラス、アクリルといった異素材のキューブへと進化を遂げましたが、この空間に真の完成をもたらしたのは私の手ではありません。
かつて役割を終え、消えゆく運命にあったこの納屋は今、天空を巡る太陽や月の軌道と響き合い、その輝きを色彩へと書き換える唯一無二の「天体光を変換するデバイス」へと転生を遂げたのです。
この空間が放つ圧倒的な磁力の正体は、単なる装飾ではなく、「光を受け止める形(幾何学)」「光が色に変わる性質(光学)」「天体が動くリズム(天文学)」という宇宙の法則をそのまま形にした点にあります。日本古来の菱紋や矢来紋に着想を得て、精密に45度の傾きで設計された格子は、降り注ぐ光を最も美しく迎え入れるための数理的な必然であり、まさに「光をデコード(翻訳)する装置」としての役割を担っています。
ブロックの角度をわずかに変える。ただそれだけの操作が、昼は強烈な太陽光を、夜は静謐な月明かりを、壁面を渡り歩く「色彩の奇跡」へと変容させる。自然の力と人間の創造力を一針ずつ丁寧に縫い合わせるこの体験こそ、ヴェガの提唱する「愛縫(アイヌイティ)」の結晶です。また、固定された静止物である格子が、天体の運行と連動して動的な色彩を放つという逆説は、もう一つの柱である「パラドックス」を体現しています。
「太陽や月の光を筆とする」
刻一刻と移ろう自然の光をそのまま取り込み、精緻な器(キューブ)に「共鳴(レゾナンス)」させる。その瞬間、かつての闇は光の層を重ね、翳(かげ)を遊ばせ、「光の彫刻」シリーズを成す「朝光(あさかげ)」と「光の十字架」と「光の渡り鳥」が浮遊する宇宙の宝石箱となります。この芸術体験は、豊かな自然が息づく富山の、そしてヴェガという場所だからこそ生まれました。忘れ去られようとしている地方こそ、都市にはない剥き出しの自然という、最も大きな可能性を秘めているのです。
「Everything is Nothing」
30年の歳月を経て、取り残された空間は今、無限の宇宙と繋がっています。光を遮らず、その進む道を整え、自然が刻むリズムを表現のエンジンとする「人間と宇宙の共同作業」。これこそが現代アートの可能性を広げる新しい時代のスタンダードであり、人類が自然と共に歩むための新たな哲学(バリュー)となるのです。世界に新しい価値の光を刻むヴェガの象徴が、ここにあります。
a wing plate & table
静寂の舞台、あるいは雪上の記憶
それは、空間を切り裂く一筋の光のようであり、 かつて白銀の斜面に刻んだスキーのエッジのような、鋭利な一閃。 「a wing plate(ア・ウィング・プレート)」と名付けられたこの翼は、 その上に置かれるすべてのものを、一瞬にして舞台上の「演者」へと変貌させる。
極限まで薄く、シャープに仕上げられた木のエッジ。 その上に何かが静かに鎮座するとき、 それは単なる器ではなく、静謐な演劇性を帯びたアートピースとなる。 対象の力強い質感や曲線美は、この完璧な「器(エンジニアリング)」によって初めて解放され、宇宙のすべて(Everything)を語り始める。
この極限のシャープさと存在感を可能にしたのは、家具エンジニア・柿谷朔郎氏の比類なき技術である。私の脳裏にある抽象的な「鋭さ」を、寸分の狂いもなく物質へと定着させる彼の仕事は、VEGAの表現を語る上で欠かすことのできない、魂のレゾナンス(共鳴)そのものだ。
職人の精緻なエンジニアリングと、私の「アイヌイティ(内なる光)」が愛縫(あいぬい)されたとき、このプレートは、置かれるものに新しい価値を刻み、見る者の魂を静かに震わせる舞台へと昇華する。
「Everything is Nothing(すべては無なんだ)」。 一瞬の滑走の記憶が、静止した空間の中に新たな光を放つ。 これもまた、技術が芸術へと繋がる、VEGAの大切なパラドックスのひとつである。
Modular Shelving System(モジュラー・シェービング・システム)
それは単なる「棚(shelf)」を超えた「表現の舞台(System)」
そこに存在するのは、完結した家具ではない。 木が語り、ガラスが光を通す。 二つのシェルフが放つ静謐な秩序は、家具エンジニア・柿谷朔郎氏の 精緻な手仕事によってもたらされた「完璧な余白」である。
このシェルフの真の姿は、使い手の意志によって初めて立ち上がる。
引き出しをどこに置くか、ガラス棚をどう重ねるか。 空間のリズムをどう刻むか。 組み換え、再構成することで、このシェルフは使い手一人ひとりの 「内なる光(アイヌイティ)」を表現するためのキャンバスとなる。
「 Everything is Nothing(すべては無なんだ)」。 私は、このシェルフという完璧な「無」を使い手に託す。 使い手がそこに、自らの魂(愛縫)を込めて、自らの宇宙(Everything)を編み上げていく。 それは、私から使い手への、静かな、しかし深い問いかけ。
